最近、いろいろな現場で女性カメラマンを見かけることは、珍しく無くなりました。
今回のゲストは、そんな中でも、ライブの現場、雑誌のインタビュー記事、更に料理写真までと、ひときわ輝きながら幅広く活躍されているカメラマンさんです。
-身体表現と写真について-
Ahoy! 本日は、どうぞよろしくお願い致します。
マオさん よろしくお願い致します。
Ahoy! ご出身は東京ですか?
マオさん 三重県は伊勢志摩の出身です。
父は鰹の一本釣り漁をしていました。母は主婦です。高校までいました。
Ahoy! いつ頃から写真を始められたんですか。
マオさん 大学(京都精華大)に進学してからと、遅めなんです。
精華大では人文学部に所属し、「身体」に興味を持っていました。ですので卒業後はマッサージ・整体師など身体に関わる仕事に就けたらなと思っていました。
もともとダンスにも興味があり、身体のこと踊りのことを学べるゼミを専攻したのですが、それが暗黒舞踏*¹のゼミでした。
Ahoy! えっ、あの白塗りの?
マオさん はい。
Ahoy! ダンスから写真に行ったきっかけは何だったんですか。
マオさん もともと、ファッション系の雑誌が好きだったんです。 中学生の頃、Zipperとか装苑などをいつも見ていました。
その延長で、読む漫画も「ご近所物語」*²とか。気に入った写真を切り抜いて、コラージュにしたりしていました。
Ahoy! クリエイティブな素養はあったんですね。
マオさん ん~、そうかもしれませんね。その頃、初めて買ったCDのジャケ写を撮ったカメラマンが、後の師匠 でした。
Ahoy! 運命感じますね。
マオさん 今から思えばそうですね。
大学では、となりの芸術学部にも友人が沢山いて、たまたま 版画学科の先輩からカメラを借りたことがあったんです。そして、教授の研究室には、沢山写真集がありました。特に写真家の細江英公さんの三島由紀夫の裸体写真集や秋田の農村を舞台に土方巽をモデルにした「鎌鼬」(かまいたち)には、衝撃を受けました。
そんなことが同時期に起こり、写真に興味を持ち始めました。
Ahoy! かなりマオさんのイメージとは違う、硬派な印象の写真ですね。
マオさん やはり元々、「身体」に興味を持っていたからだと思うんですが、見た瞬間「これだっ!」という感じでした。(といって、お気に入りの作品を見せてくれた。)
*¹ http://bit.ly/2944PBG
*² http://bit.ly/294afwi
-出会いについて-
Ahoy! 写真、というと、撮影をすることが好きな人や、機械としてのカメラが 好きな人がいます。マオさんはどちらですか。
マオさん どちらも好きですね。大学3年の時にフィールドワークで、アメリカのオハイオにある提携校に行けることになりました。そこでまず最初に、当時、精華大でフィール ドワーク担当でジャーナリストでもあるジョン・アイナーセン先生といっしょに カメラを買いに行ったんですが、キャノンのAEー1を買いました。
Ahoy! おおっ、渋いですねぇ…。
マオさん 今でもお気に入りです。仕事用のカメラはデジタルが多いですが、プライベートのカメラとして愛用しています。出かけるときは、よく鞄に入れています。
Forbesのアジア版の雑誌の撮影でCanonの御手洗会長とご一緒したとき は、このカメラのお話で盛り上がってしまい、逆にわたしがAE1で撮っ てもらいました(笑)
Ahoy! 本格的に写真に取り組むようになったのは、その頃ですか。
マオさん そうです。アメリカのフィールドワークで写真にはまりましたね。現像などの暗室作業もそこで覚えましたし。始めると面白くなってしまって、朝まで没頭することも珍しくありませんでした。写真のクラスのデニー先生も褒めてくれました。本当はクラスはすでに定員オーバーだったんですが、何とか頼み込んで無理矢理授業を受けさせてでもらいました。
結局フィールドワークは、「身体」については一切やらず、卒業制作は「写真」で提出しました。(笑)
Ahoy! 意外と「押す」ほうですね。
マオさん 飽きやすいほうですが、一旦はまると、とことん行きます。
あの頃は、ほんとに暗室作業が楽しかった。それと、英語での会話がままならなかったので、写真でコミュニケーションできるのがうれしかったのもあります。褒めて貰えた、というのも大きいですね。
-上京-
Ahoy! そして、大学を卒業して上京、カメラマンになられたんですね。
マオさん 仕事するなら東京だ、と言う思いが強かったです。大学のある京都とい う選択肢はなかったです。
Ahoy! それは憧れですか、それとも仕事の便から?
マオさん 両方です。
何もわからないまま、とあるカメラマンのアシスタントとして働き始めました。事務所は中目黒。まともなお給料など貰えません。ただでさえ家賃の高い中目黒。そこで住めるのは風呂なし、トイレ共同のワンルーム。とにかく働き通しなので、睡眠時間を確保するために通勤時間を減らす必要があり、事務所まで自転車で通える距離というのも重要でした。
Ahoy! 大変だったんですね…。
マオさん はい、それはもう、大変でしたよぉ~(笑)
しばらく働いたのですが、自分が未熟だったのでその師匠のアシスタントをやめてしまったんです。挫折です。
その後、スタジオマンを経て、野村浩司氏とアミタマリ氏に師事しました。
Ahoy! お二人について教えてください。
マオさん 野村浩司*³さん、アミタマリ*⁴さんご夫妻です。
Ahoy! ご夫婦ということは、同時にお二人のアシスタントをされていたんですか。
マオさん そうです。
音楽の仕事がとても多かったです。
野村さんは600枚以上CDのジャケット写真を撮影されていました。
アミ タさんは音楽をはじめ、ファッション、カルチャーと、お二人から様々なことを学ばせて頂きました。
*³ http://www.nomuraphotograph.com/home.html
*⁴ http://www.amitamari.com/
-最近の活動について-
Ahoy! 最近手がけられたお仕事を教えてください。サカナクションが多いんで すか。
マオさん サカナクションは定期的にライブやイベントがあるので何度か撮らせて もらっています。映画「バクマン。」のテーマ曲をサカナクションが担当した(新宝島)際、山口一郎さんと企画・プロデュースの川村元気さんの対談を撮影したのが一番最初だと思います。その後、別の現場で一郎さんとご一緒させて頂いたときに、覚えていてくれ、今に至ります。
そのほかにも雑誌のお仕事、Switch、アクチュール・ステージ、 Forbesなど。
それから最近FRaUでは料理写真も2回ほど撮らせてもらっています。
Ahoy! 幅広いんですね。たとえば、同じ人物撮影でもポートレイトとライブでは、ずいぶん違うんじゃないですか?
マオさん まったく別物ですね。ライブはライブ専門のカメラマンもいます。やはり餅は餅屋。でも、負ける気はしませんけどね。
Ahoy! おおっ!
マオさん 強がりではなく、私には私の「味」があると思っているので。
-仕事について-
Ahoy! 生臭い話してもいいですか(笑)。フリーということで、営業活動はどうされていらっしゃるんですか。
マオさん もちろん自分で売り込みもします。 最近はほぼ営業はサボってるんですが(笑)。おかげさまで色々なところから、お仕事のお話を頂けるようになってきています。もちろん独立して2年なので、まだまだですが。実は最近は映像作品にも取組中なんです。ただし編集はまだ未経験なんですが。
Ahoy! 映像とスチルは、かなり違うのでは?
マオさん かなり違いますね。
Ahoy! ずばり、苦労はありますか?
マオさん ありますっ! (笑) 機材が高い! これはどうしようもないんですが…。一度買って終わりではなく、順次アップデートしていかなければならない機材などもあって、悩みの種です。
あと、もっと人とのつながりを増やしたいです。もともと人見知りなので、いろいろなところへ時間を作って足を運ぶようにしています。
Ahoy! tumblr*⁵を拝見すると、そういった日常の風景写真もありますね。
マオさん ほとんどAE1でとってます。趣味としての写真ですね。あまり考えずに 撮っています。
*⁵ http://maoyamamoto.tumblr.com/biography
-今後の活動について-
Ahoy! 今後はどんな活動をされる予定ですか。
マオさん もっと、色々と仕事を増やしたいです。量はもちろん、幅を広げたいですね。
身体表現に興味あるので、舞台の写真やポスターなども撮ってみたいです。自分の原点に近いので。
Ahoy! 身体といえば、スポーツの分野はどうですか。
マオさん もちろん興味あります。特になかでも体操が好きです。実はNumber誌にも売り込みに行きました。 どれくらい体操が好きか、一人で一方的に喋っていたら、一年後に仕事が頂けました(笑)。その時に撮影したのが「内山由綺」選手*⁶でした。リオオリンピック代表に選ばれました!!
体操って、ごく短時間の間に心技体が最大の力を発揮するのが凄いで す。 自分の身体を瞬時にすべてコントロールするのが凄い! ほんとうに感動するんです。(涙!)
*⁶ http://www.yuki-uchiyama.com/
-モチベーションについて-
Ahoy! そんなマオさんのモチベーションとは?
マオさん 「撮りたい!」という衝動です。もしかしたら物欲に近いのかも。
Ahoy! 物欲ですか?ブランドもののバッグとか?
マオさん あ、いえ、わたしそういうのはまったく興味ないんです。そうではなくて、収集欲に近いかな。そう、収集欲。持って帰りたくなるんですね。今、目を閉じたら消えてしまう光景を持って帰れるんです。それを集める、だから収集欲が言葉としては、一番近いかもしれません。
それから、もう一つは、こうして写真をとおしていろいろな人に関われることもあります。Ahoy!さんもそうですし、サカナクション、エレクトロニコス・ファン タスティコスのニコスLab.、山伏や醤油造り職人なんていう方々とも、取 材を通してお会いできたり、その出会いが更につながったり。写真を通して人生が豊かになる気がします。
Ahoy! ものではなく、心の豊かさを求めるところは、Ahoy!と同じですね。
マオさん そうかもしれません。自分の興味のあるものを、みんなに見てもらいたいと思っているので、きっと同じです。
Ahoy! よかった(笑) 本日は、楽しいお話、ありがとうございました。
小柄で華奢な外見とは裏腹に、お話しすればするほどマオさんの芯の強さに驚かされる、そんなインタビューでした。それは、きりっとした目力にも現れています。カメラマンという、クリエイティブの最前線で活躍することの厳しさをひしひしと感じた反面、内山由綺選手を思い浮かべながら感極まってしまう場面では、感受性の強さを感じました。「仕事だから撮る」のではなく「撮らずにいられないので撮る」そんな衝動が、エネルギーの源になっているのかもしれません。これからもきっと、マオさんらしい「味」のある、そして硬派な写真が生まれることを期待したいと思います。