記念すべき第一回は、信州 諏訪の地でご活躍中の内堀法孝さん。 インハウスのインダストリアルデザイナーから、どんどん幅を広げていらっしゃいます。
−デザインについて−
Ahoy!:今日はUNYdesign(ウーニーデザイン)を創業され、3年を経た内堀さんにお話を伺いに来ました。
内堀さん:早いですねぇ、もう3年ですね。
Ahoy!:先ほども、来客があったようですが、お忙しそうですね。
内堀さん:そうですね、お陰様で忙しくさせて頂いています。
Ahoy!:もともとはインハウスのインダストリアルデザイナーだった内堀さんですが、現在はコンサルタントが主なお仕事ですか?
内堀さん: 結果的にそういう傾向が強くなっていますが、デザインは続けています。 例えばこれ。蜂蜜のボトルのパッケージをデザインしました。
Ahoy!: シンプルながら、素敵なデザインですね。
内堀さん:「蜂蜜」といっても、流通しているほとんどが過熱した加工品ですが、これは原料のみで生産されていて「生ハチミツ」というそうです。クライアントは、そこが売りであり、こだわりの部分ですので「過熱処理されていない、まさにミツバチが集めて来たそのものをいかに表現するか」というポイントを前面に出しています。
Ahoy!: だからシンプルなんですね。クライアントのこだわりが伝わってきます。
内堀さん: こちらもハチミツですが、こちらは「白州」という地でこだわりを持って生産されています。花が蜜を出す時期を「流蜜期」と呼ばれますが、そこに「白州」という自然溢れる産地名を結びつけて、ブランディングまで担当させて頂きました。
Ahoy!: こちらもこだわりを盛り込んでデザインされているんですね。
内堀さん: やはり、デザインはクライアントの代弁者ですから、クライアントのこだわりを表現できなければ、仕事としては成立しません。我々は、デザインという手法を使って、いかにクライアントのこだわりを、購入されるお客様に対して伝達できるか、ということが問われると思います。
Ahoy!: そこは、ちょっと「発露」の表現であるアートとは違いますね。
内堀さん: そうですね。
-オーガナイザーとして-
Ahoy!: 内堀さんといえば「SHKKI de SHUKI(漆器de酒器)」の印象が強いのですが、こちらの活動は如何ですか?
内堀さん: もともとお酒が好きな仲間同士で、自分の好きな器を作ってお酒を飲もう、というところから出発していますし、自分の感性を直接世の中に届けるという点ではアートに近い取り組みだと思います。お陰様で2011年から塩尻、東京、諏訪で展覧会を開催させて頂けています。
Ahoy!: 信州で漆器、というと、奈良井宿が思い浮かびます。
内堀さん: いわゆる「木曽漆器」として有名です。塩尻木曽地域地場産業振興センター、塩尻市や地元の団体に後援を頂いています。
Ahoy!: プロデューサーとして、あるいはオーガナイザーとしてご活躍されているわけですね。
内堀さん: カタカナにするとかっこいいですが、まあ何でも屋ですね(笑)。
Ahoy!: ご謙遜されていますが、漆器以外にも、最近は地元下諏訪地域のクリエイター、中にはIターンで移住されてきたクリエイターも含めて「BiDA展」を企画されています。
内堀さん: 諏訪という地域は、長野県のほぼ真ん中に位置しているいわゆる「中信」エリアになりますが、じつは東京からもそれほど遠くない。特急で新宿まで2時間ちょっとです。また、名古屋を経由して大阪にも出かけられます。中央道を使えば、バス便も多く、日帰りも可能です。ただ、ご覧のとおり、山あり湖ありのとても自然にあふれた地域です。世の中の流れは、どうしても東京など都市部を中心に動いていますが、では、この諏訪という地域では、クリエイティブな活動は出来ないのか?という疑問からスタートしました。
Ahoy!: なるほど。昨年行われた展覧会「BiDA2015」のパンフレットを拝見していますがとてもおしゃれ感があふれていながら、一方でぬくもりのあるプロダクトばかりですね。
内堀さん: 実は今まであまり気づかなかったのですが、もともとこの地域で活動しているデザイナーやクリエイターが少なからずいたということ。また、この地域が気に入って外から入ってきてくれた人たちもじつは少なからずいたんです。皆さん若い方が多いです。
Ahoy!: 意外ですね(笑)
内堀さん: ですね。(笑) もちろんそれぞれ得意な分野で制作をしている方々だったんですが、バラバラでやっていくより、協力し合っていった方が少し規模の大きいことが出来るんではないか?ということになって、BiDA(Brand incubation, Design&Artisan)の活動を始めました。
Ahoy!: そのとりまとめをされたんですね。
内堀さん: はい。実行委員会を設定して展覧会を行いました。
Ahoy!: 片倉館ですね。
内堀さん: 千人風呂で有名な片倉館(国指定重要文化財)、その別棟の大広間をお借りして開催しました。
Ahoy!: 反応はいかがでしたか?
内堀さん: 予想を超えた好評を頂きました。というのも、各出展者の作品は、いわゆる大量生産とは真逆の手工業で生み出されるものです。家具にしても鞄にしても、どうしても高価になってしまいます。東京ならたくさんのブランド品を見慣れている方が多いので、それほど驚かれないかもしれませんが、この諏訪エリアでは、やはり高価と映ってしまう、果たしてどうかな….と心配していたんですが、かなり高価な家具に買い手がついたり、鞄をオーダーしていく方がいらっしゃいました。これはうれしい誤算でした。
Ahoy!: この鞄、素敵ですねぇ….。確かにお安くはないですが、強烈に欲しくなりました。
内堀さん: ぜひ、ご注文下さい(笑)
Ahoy!: よいものを見る目を持った方々は、東京以外にもいらっしゃるということですね。地方の可能性を感じるお話です。
内堀さん: もちろんどこもそうかは判りません。ただ、もしかすると潜在的に可能性が眠っているだけで、きっかけさえあれば掘り起こせるのかもしれません。
Ahoy!: なるほど。一人の作家では、まず制作に時間を割かなければならず、その可能性を掘り起こすことに手が回らないが、組織化されると、一気にその可能性は高まるということですね。
-さらなる可能性に向けて-
Ahoy!: ところでさっきから気になって仕方ないんですが、あちらにある建築模型はなんですか?
内堀さん: これは、先ほどのお客さんと打合せしていた、一番ホットな案件です。
Ahoy!: 建築業界にまで進出ですか?
内堀さん: いえいえ、私たちが設計するわけではありません。これは、JR上諏訪系周辺を再開発で活かそうという案を、立体化したものです。地域の様々な専門家と寄ってたかって、半ば勝手に提案しようとしています。
Ahoy!: 勝手ですか!でも確かに上諏訪の駅前は、山側と諏訪湖側を行き来するのが不便です。
内堀さん: 観光客の方々は、電車を降りたら諏訪湖に向かいたい。旅館もほとんど諏訪湖側です。しかし現状は山側にしか改札がなく高架の自由通路を昇って降りて、諏訪湖側へ出なければなりません。
Ahoy!: この半円形の建物はなんですか?
内堀さん: 図書館をコアにしたコミュニティセンターです。読書に疲れてふと顔を上げると、湖畔が見える、そんなシチュエーションが演出できればと思っています。
Ahoy!: 素敵です!
内堀さん: ついでに温泉施設も併設しちゃおうかな、という案もあります。
Ahoy!: 素敵過ぎます!
内堀さん: まだ、緒についたばかりのプロジェクトですから、これからどうなっていくか未知数ですが、未来に向けたプロジェクトということでわくわくしながら、取り組んでいます。いわゆる受託型のデザインではなく提案型の活動、アクティブデザインですね。
Ahoy!: お話を聞いているだけでもわくわくしてきます。
内堀さん: あ、最後に告知させてください(笑)今年もBiDA2016開催が決まりました。それからイラストレーターの息子の個展が5月に、私自身の個展を9月に銀座で開催します。ぜひ、お越しください。
Ahoy!: 承りました。告知させて頂きます。今日はありがとうございました。
サラリーマン時代から、デザイナーとしての矜持をお持ちの内堀さんでしたが、独立後は、さらに活動の幅を広げていらっしゃいました。若い人たちや、地元の方々を束ねながら、いくつものプロジェクトを推進していらっしゃいます。
ただ、それでもご自分はデザイナーなんだというお気持ちを持っていらっしゃり、作品が様々に形を変えているだけなんだなと感じました。地域のあり方としても、参考になるところが多く、今後の諏訪エリアを熱くしてくれそうです。

2013 UNYdesign主宰代表
日本グラフィックデザイナー協会会員
長野県デザイン振興協会会員
1979年金沢美術工芸大卒、
同年諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)入社
ウォッチ、情報機器、CIデザイン 地場産業向けデザイン、デザインマネージメント等担当
デザインフォーラム銅賞、独IF賞、グッドデザイン賞等 受賞、ニューヨーク近代美術館永久保存選定