Ahoy! people No.3  及位友美(のぞきゆみ)

 

Ahoy! people 3人目にご登場頂くのは、アーツカウンシル東京 Tokyo Art Research Labの人材育成プログラム「思考と技術と対話の学校」のスクールマネージャーとしてお世話になっている及位さんです。

 

-コーディネーターというお仕事-

Ahoy!: 及位さんの肩書を拝見しますと「コーディネーター」「アートコーディネーター」とありますがキュレーターやアートマネージャーと比べて、具体的にはどんなお仕事なんでしょうか。

及位さん: そうですね、判り難いですよね、一言でいうと「つなぐ仕事」といことでしょうか。今は舞台芸術関係のお仕事が多いのですが、アーティストと主催者や会場などの間、作品と観客などさまざまなステークホルダーの間を「つなぐ」仕事です。 「つなぐ」といっても、様々な折衝事があり、それらの間に立って調整をしていくことが具体的な仕事になってきます。例えばアーティストのコンセプトを実現させるために必要な予算と、主催者の予算に乖離がある場合、どのようにプロジェクトを実現していくかといったことや、会場の規模感やスケジュールなどを調整したりします。

Ahoy!:それを全部まとめていくのは、大変でしょうね。

及位さん:プロジェクトに関わる人たちにはそれぞれの立場があり、それぞれがベストな状態を作り出そうとしています。複数の人や組織が関わる現場では、それぞれの役割や意図をよく理解したうえで、具体的にプロジェクトを動かしていかないと、どこかにひずみが出て間違った方向にいってしまうこともあるので注意が必要です。

Ahoy!: それぞれの立場もそうですが、例えば、金銭感覚、時間感覚といったものも、それぞれ違ったりしませんか?

及位さん: そうですね、コーディネーターの主な仕事は、調整と進行管理ですね。

Ahoy!: そうすると、コーディネートだけでなく、現場でアーティストのおしりをたたくディレクターのような部分もあるんですか?

及位さん: 私はそういうタイプではないと思います。アーティストの作品づくりに必要な時間をチームのメンバーが把握できる環境をつくったり、対応が取れる体制を想定したりしておく必要はあるので、会場のスタッフや、チームのメンバーはもちろん、現場の方々とコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進行します。

Ahoy!:及位さんのキャリアの中では、フェスティバル/トーキョーでの経験が、柱になっているんでしょうか?

及位さん:そうですね、フェスティバル/トーキョーでの勤続年数が一番長かったので、今の自分の土台になっていると言えるかもしれません。もともとは、NPO法人アートネットワーク・ジャパンに就職する形で、急な坂スタジオの設立に携わり、その後フェスティバル/トーキョーの立ち上げスタッフとして、同じ組織の別のプロジェクトへ異動しました。立ち上げ時はスタッフの人数も本当に少なかったんです。広報を担当したのですが、広報のプロフェッショナルと言えるほどの経験は当然なかったので、アート系のフェスティバルや施設で広報を担当されている何人もの方にお話を聞きに行ったりもしました。

Ahoy!:及位さんのようなご職業の方はたくさんいらっしゃるんですか?

及位さん: はい、フリーランスの制作者やコーディネーターはそれなりに居ます。舞台芸術の場合は、劇団や劇場、フェスティバル付きの制作者がいるケースも多いですが、プログラムや作品の数が多くて対応できない場合に、フリーランスに業務委託しています。

 

−働き方についてー

Ahoy!: 現在は「株式会社ボイズ」を設立されていらっしゃいますが、それまではフリーランスでいらっしゃいました。また、一般社団法人マドプロダクションの理事でもいらっしゃいます。一つの組織にとらわれず、複数のお仕事をこなしていらっしゃいますね。

及位さん:どこかひとつの組織に雇われる働き方が、自分には合わなかったのだと思います。組織の決定や方針と、自分のなかで妥協できることのバランスが崩れてしまうんですよね。コーディネーターってそもそもいろいろな物事の板ばさみになる仕事だから、どこかひとつの組織に属していない方が働きやすかったりもします。ですが実際は、フリーランスと言っても、何らかの組織にプロジェクトごとに雇用されたりするわけなので、自分ひとりの判断や責任で動けるような現場は無いんですけどね。それでも心もちとして、自分にとっては大事なことでした。

Ahoy!:いわゆる「フリーランスブーム」のような時期がありましたが、その時組織を離れた人たちが直面したのが「フリーランス」という言葉ほど「自由」ではなかったということがあったと思います。

及位さん: 全くその通りだと思います。会社組織には属していませんが、社会という大きな組織に属しているということは、変わりありませんから。

Ahoy!:それほど変化はありませんでしたか?

及位さん:ドラマチックな変化はなかったかもしれませんね。ただ、複数のプロジェクトに関わることで、以前よりはさまざまな立場から俯瞰的に物事を考えられるようになったとは思います。一人で何でもやらないといけない場面もより多くなるので、自分のキャパシティもできることも確実に広がります。職種もコーディネートだけでなく、アートの分野に限られてはいますが編集や執筆などのお仕事も増えました。

Ahoy!:さすが、プロフェッショナルですね。

及位さん:仕事に対しては厳しい部分はあるかもしれません…。特に進行管理はきつめの傾向がありますね。フリーでやっている身として、逆に失敗できない怖さの裏返しなのかもしれませんが。

Ahoy!:色々な納期、締切があると思いますが、及位さんのように誰かが管理しなければなりませんね。

及位さん:ただ作品づくりの現場においては、アーティストのクリエーションのプロセスを待つ必要があります。

Ahoy!:難しいですね。一方で、フリーランスになることで、経済的不安はなかったんですか?

及位さん:もちろんないことはないですよ。でも、どんな大企業だって、明日何かが起こり突然倒産する危機はいくらでもありますよね。フリーランスとして不安を感じない程度には、リスク分散をしています。例えばなるべく複数のお仕事をいくつか並行してお受けする体制をとっておけば、どれか一つがなくなっても収入がゼロになることはありません。ノマドプロダクションに所属しているのもそのような考えが根底にはあります。更にノマドプロダクションの良いところは、プロジェクトごとにチームを組むことで、一人で仕事を抱えずにお互いがバックアップしながら仕事ができる体制を取れるところです。例えば一人がすべての業務を一手に担っている状態では、インフルエンザで倒れることもできないですよね。そのようなリスク分散は心がけています。

Ahoy!:それは企業でも同じですね。及位さんの次の世代ももう育ってきているんでしょうか?

及位さん:ノマドプロダクションの活動を中心に、ネットワークは広がってきていると思います。プロジェクトによっては、誰かにアシスタントに入ってもらい動かしているものもあります。

 

-モチベーション-

Ahoy!:そんな及位さんにとってのモチベーションとは、何でしょう?

及位さん:多感な中学・高校時代を過ごしていたので(笑)、都心の美術館に足を運んだり、実家の近くにある武蔵野美術大学の文化祭に通ったりして、「こんなに自由な表現も芸術なのか!」と思ったりしていましたね。アートは物事の「違う見方」に気づかせてくれるものだと思います。何となく生きづらいなあと思っていたようなときに、自分にはアートが必要なのかなと感じる経験をしていたのだと思います。

Ahoy!:そして大学では、美学美術史を専攻されたんですね。

及位さん:そうですね。アーティストになりたいと最初は思っていたんですけど、その夢はあきらめました(笑)。だからアーティストの活動をささえる人になりたいと考えたんです。自分と同じように、アートに触れることで視点が変わったり、アートを必要としている人たちがいると信じています。それが仕事へのモチベーションになっていると思います。

Ahoy!:すでに私たちが視点を、変えられてしまいました(笑) 

及位さん:良かったです(笑) 

Ahoy!:これからも、及位さん、そしてボイズのご活躍をお祈りしています。ありがとうございました。

及位さん: ありがとうございました。


及位さんの第一印象は、ほんわかした人、と感じる人が多いと思います。
でも、こうしてお話を伺ってみると、様々な経験に裏打ちされた自信を感じます。
もちろんその経験の中身は楽しいことばかりではなく、苦労と呼ばれるようなことも含まれているのだと思います。
それらを含めて消化しながら、アートの喜びを作り出していらっしゃるからこそ、素敵に輝いていらっしゃるのだと感じました。
今度は、大好きだとおっしゃる「神聖かまってちゃん」のライブで、拳を振り上げている及位さんにも、お目にかかってみたいです。

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【経歴】 及位友美(YUMI NOZOKI)
アートプロジェクトのコーディネーション/編集・執筆/マネジメントを手がける。
取手アートプロジェクト事務局、東京都現代美術館学芸アシスタント、急な坂スタジオ、フェスティバル/トーキョーを経て、2012年よりvoidsで活動を開始。
2014年より一般社団法人ノマドプロダクション理事。2015年に株式会社ボイズを設立。
慶應義塾大学美学美術史学専攻卒業。

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