今回のゲスト、武井さんと初めてお会いしたのは、「エレクトロニコス・ファンタスティコス」のニコスLabメンバー、黒電話リズムマシンの開発者としてだった。仕事の終わった深夜にも関わらず、作りかけだった楽器の最後の詰めをしたいと、わざわざ東京を横断して駆けつける生粋のエンジニア。
4月半ばの土曜日の午後。渋谷の雑踏をぬけ、待ち合わせの場所へ。武井さんと久しぶりの再会を果たしたのは、FabcafeTokyo 、ものづくりの最先端の場所である。
-ものづくり、のルーツ-
Ahoy!:本日は、午前中にもお打ち合わせがあったとか、お忙しい中ありがとうございます。よろしくお願い致します。
武井さん:こちらこそよろしくお願い致します。
Ahoy!:まずは、武井さんの略歴をご紹介頂けますか?
武井さん:はい、エンジニアの武井祐介といいます。年は30歳です。出身は群馬県で、学生時代は群馬高専で機械工学の勉強をしていました。この頃はロボットコンテストに参加するため、授業以外の時間もずっとロボットの設計をしていましたね。それから大学院に進み、現在は精密機械メーカーで製品開発の仕事に携わっています。
Ahoy!:ずっと機械工学系で来られているんですね。
武井さん:そうですね。子供の頃から物作りが好きだった、という点では成長してないですね(笑)
-ものづくりのよろこび-
Ahoy!:最近では、お休みの日もお忙しそうですが。
武井さん:そうですね。休日は会社の外での活動に取り組んでいます。
Ahoy!:どのような活動ですか?
武井さん:ものづくりの活動です。もともと何かを作るプロセスが好きだったので、最初は友人たちと集まり、お題を決めてガジェットを作っていました。次第に目標を決めた活動をしてみようと、デザインフェスタなどのイベントも出展するようになりました。
Ahoy!:なるほど。そこでは何を出展されたんですか?
武井さん:最初に出展したのは、正十二面体の形をしたルームライトです。自分たちが作るプロセスを楽しみたかっただけなので、いろいろなセンサーを入れて、とにかく機能てんこ盛りなガジェットでしたね。
Ahoy!:出展された結果はいかがでしたか?
武井さん:良くも悪くも、来場者の方々から、沢山のフィードバックを頂きました。自分たちが考えて作ったものに対して、短期間に沢山の反応をもらえたのは、なんだか新鮮で貴重な体験でしたね。その後も何度か展示会に出展する機会がありましたが、だんだん自分たちの自己満足だけでなく、見る人の反応や、どんなものだったら欲しいと思ってくれるかを意識しながらものづくりをするようになりました。
Ahoy!:その他の活動を教えて下さい。
武井さん:最近は、自分の屋号を持ち、さまざまなクリエイターの方たちとコラボしながらものづくりをすることが多いですね。
Ahoy!:屋号ですか?
武井さん:これです。(といって名刺とともにアクリル板と歯車で出来た小さなマシンのような看板を見せて下さいました。)
Ahoy!:へ~、これ、なんと読むんですか?
武井さん:「TAK-TEK」(タケイテック)です。
Ahoy!:かっこいいですね!
武井さん:これ、動くんですよ!ここを回すと、ほらっ!
Ahoy!:あ、ほんとだ、歯車が動いた!
武井さん:それだけなんですけどね(笑)
Ahoy!:こういうギミックは、男の子はみんな好きですよね。
武井さん:そうなんです。役に立つかどうかというのは二の次です(笑)
-エンジニアとしての矜持-
Ahoy!:ところで、この屋号の由来を教えて下さい。
武井さん:以前、あるデザイナーの方と一緒に、オリジナルのラジコンの製作のお手伝いをしたことがあるのですが、そのデザイナーさんにラジコンの車体に貼るロゴを作っていただいたのがきっかけです。
Ahoy!:F1のスポンサーステッカーのようなものですね。
武井さん:そうです。私は個人で参加しているので、企業ロゴのようなものが無かったものですから。結局、そのデザイナーさんから屋号とロゴを授かり、その後も個人活動の際に使っています。最初は気恥ずかしい感覚がありましたが、これのおかげで自分の作品のアピールもしやすくなり、他のクリエイターさんとも繋がりやすくなったので、個人活動がとてもスムーズに進むようになりました。デザイナーさんにはとても感謝しています。
Ahoy!:これ、正面からみると、文字ですが、斜めから見ると3枚のアクリルに分割されたセグメントがプリントされているんですね。立体的です….
武井さん:そうなんです。デザイナーさんが最初から3Dのデータとして作ってくれたんです。立体的で見る方向によって動きが出るというのは、私の作品にも共通しています。名刺だけでは伝わりにくいと思ったので、ロゴのデータをいただいたその日に立体の看板を作りました。
Ahoy!:それでこれを!どうりで忙しいはずですね。
武井さん:そうです。こういうものづくりが好きなんです(笑)
Ahoy!:いろいろな活動をされていらっしゃいますが、思い出に残っているというとどんなものがありますか?
武井さん: 八王子市内の企業に勤める有志の方々と一緒に、自分たちの強みを活かしたものづくりプロジェクトの企画をしたことが印象に残っています。このときは機械部品を加工するとある町工場さんの技術を活かしたアクセサリーを作ることになり、みんなでアイディア出しから製作、そしてイベントでの販売まで行いました。普段のエンジニア仲間同士で行うものづくりとは違い、さまざまな視点からの意見が飛び交うので、とても刺激的でしたね。一方で、業種の違うメンバー同士で、技術の専門的な相談をすることに難しさを感じたのも印象的でした。専門知識を十分理解したうえで、それを誰でもわかる言葉で伝えることは、チームの中でのエンジニアの大事なスキルなのだと思いましたね。
Ahoy!:技術者の共通言語が使えたほうが楽ではあるんですけど….。
武井さん:そうですね。さらにそのスキルは、買ってくれるお客さんに対しても、自分たちの作ったものの価値をきちんと伝える上でとても大事でした。最終製品を使ってくれる方にとっては、開発の過程の難しい話にはあまり興味ないと思いますしね。
Ahoy!:それは、本業の方でも同じですか?
武井さん:全く同じだと思います。もの作りは好きですが、一人でどんなにすごいものが作れたとしても、チームの中でコミュニケーションがうまく取れなければ、プロのエンジニアとしては成立しないと思っています。そういった気付きは会社の中でも多く得られるので、エンジニアとして、また人として成長させてくれている会社には感謝しています。私自身、まだまだ未熟者ですけどね。
Ahoy!:会社には、不満は無いと…。
武井さん:よく言われるんですが、会社を辞めてこのまま趣味で身を立てれば?って。でも不満はないですし、会社で求められるスキルと、会社の外で求められるそれは違うと思ってますので、楽しく両立できているのだと思います。
−自分と余白−
Ahoy!:公私ともにとても充実していらっしゃいますが、あえて今ほしいものはありますか?
武井さん:そうですね、スキルで言えば、未来を想像する力でしょうか...
Ahoy!:といいますと?
武井さん:私はこういうものがほしいとか、こういう未来になって欲しいという欲があまりないんですよね。テーマがあって、それを実現するためにものづくりをすることはよくあるのですが。
学生時代に取り組んでいたロボコンもそうでしたね。コンテストのルールは誰かが決めて、私はそのルールに沿ってロボットを作る。
でも未来を作ることは絶対楽しくて、最近は他の人が思い描く未来や、SF映画を見てわくわくしています。
Ahoy!:なるほど。
武井さん:そんな欲の少ない私の作品のテーマは「余白の多いものづくり」になることが多いんです。
Ahoy!:余白ですか…。
武井さん:はい。例えばこれ。(と、OLYMPUS Air を取り出す。)これ、オープンソースで仕様が公開されている面白いカメラで、外装やソフトウェアを自分の好きなようにカスタマイズできるようになっているんです。私はこれで自分の理想のカメラを作ることもできるのですが、それよりももっと沢山の人たちを巻き込めるような仕組みを作るほうに興味があるんですよね。
このときは、OLYMPUS Airと市販のブロックとをつなげるアタッチメントを作ることで、だれでも簡単にオリジナルカメラが作れるような仕組みを作りました。
Ahoy!:ブロックって、あの玩具のですか?
武井さん:はい。例えばこのブロックでブルドーザーのようなカタチを作ります。このくらいだったら子供でも作れますよね。
Ahoy!:はい。
武井さん:そこにこのカメラを搭載したら、ブルドーザー型のカメラスタンドになるのではないかと思うわけです。
Ahoy!:はい。
武井さん:ただ、そう簡単には合体できませんよね。そこで、わたしは、カメラとブロックを繋ぐ「アタッチメント」を3Dプリンターで作成したんです。
Ahoy!:あ、この半透明のプラスチックパーツですね。
武井さん:はい。
Ahoy!:なるほど!
武井さん:このパーツが一つあることで、カメラとブロックが繋がって、子供でも簡単にオリジナルカメラが作れるのではないか、と考えたのです。
Ahoy!:すごいですね!わくわくします!
武井さん:ふふっ。こんな仕組みをいつも「余白」と呼んでいます。先ほどご紹介したアクセサリーでも、使う人が自分でデザインを変更できるような余白を残していました。わたしが作った「余白」に色々な人手を加えることによって、ものづくりの可能性がもっと広がっていけばよいなと思っています。
Ahoy!:おお~なるほど!
-エンジニアとしてのモチベーション-
Ahoy!:そんな武井さんのエンジニアとしてのモチベーションは何ですか?
武井さん:ものを作るプロセスが好きといいましたが、そのプロセスの中で「人とのつながり」が生まれるのが好きなのかもしれません。ものづくりを通して様々な人達と一緒に作った種をきっかけに、また次の新しい種をもらう、いわば「ものづくりのわらしべ長者」のような活動をしていますし、今後も続けて行きたいと思っています。
Ahoy!:今後はどんな展開になっていきそうですか?
武井さん:これまでは一品ものを作って展示し、沢山の人に見てもらうというケースが多かったです。今後は商品として、皆さんの生活の中に取り入れてもらえるようなものをTAK-TEKの活動の中から作って行きたいと考えています。その中で、これまでの活動でお会いした方々も、楽しく巻き込んでいきたいですね。
Ahoy!:わかりました。今後も武井さんに注目していきたいと思います。ありがとうございました。
これまでは、とにかく爽やかな青年エンジニア、という印象でしたが、ものづくりへの熱意が尋常では無い、とても熱いハートの持ち主でした。そして、なにより、自分をしっかり分析した上で、自らのミッションを明確にお持ちな方でした。「好きこそものの上手なれ」という諺は、もう死語かと思っていましたが、こんなに若いのにそれを体現している方に出会えて、日本のものづくりは、決して衰退していない、と強く実感できました。